1.ひかり
停電騒ぎから数日後、アスカ家に燭台が設置された。
最低限の光は確保しようという、単純な発想の下での登場だ。
「燭台1台で、雰囲気変わるね。」
「なんか、大人っぽくなるよな。」
食卓に置き、傍に花なんか飾ってみると、そこだけまるでちょっとしたレストランになる。
普段どおりの食事も、なんとなく高級感溢れるようになるというものだ。
たとえ今日のメニューが、スーパーで3割引だった焼肉でも、だ。
「蝋燭に照らされると、シンが少し色っぽく見えちゃう。」
ほんのり頬を染めて言う恋人に、シンの胸が高鳴りだした。
色っぽい、万年ガキ呼ばわりされてる俺が!?
何それ、もしかして誘ってるのかな。
大人の階段のーぼるーってやつなのか!?
どう返答しようか迷っているシンに気付かず、このマイペースな恋人はこう続けた。
「でもー、私は子どもっぽくてわがままで、それでもって頼りになるシンが好きだなー。」
「そ、そっかー。」
褒められているのか、けなされているのか。
シンは微妙な心境で、蝋燭の炎を恨めしげに眺めた。
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