3.心地良さ


　リグの家に居候しているエルファは、この家の母リゼルを実の母のように慕っていた。
旅の途中でアリアハンに寄った時も、率先して彼女の家事のお手伝いをしている。
それは、実の息子のリグですら見習うほどに、熱心だった。



「いつもありがとう、エルファ。」


「いいえ！　リゼルさんはなんだか、近くにいてすっごく心地良いんです。
　リグとはちょっと違うんですけど、一緒にいたら落ち着くんです。」


「そう言ってくれると、私も嬉しいわ。
　最近のリグは、親離れしちゃったのかしらね、なかなかそんな嬉しいこと言ってくれないもの。
　父親に似たのかしら・・・。」



エルファは、リグが『母さんといっしょにいたら落ち着くんだ』とか言っている光景を思い浮かべてみた。
思い浮かべて、気持ち悪くなった。
彼はきっと、勇者オルテガに性格は似ているのだろう。
顔立ちはどことなく母親に似ているのだが。
というか、エルファはオルテガの顔を知らないからなんとも言えないのだが。



「私も、エルファと一緒にいると、なんだか楽しくなるのよ？
　親子ほどに年が離れているのに、親近感とか覚えるもの。」


「え、それって私が深けてるってことですか・・・？」


「そういう時は、母さんが若いって言っとく方がいいんだよ、エルファ。」



　いつの間に家に帰ってきたのだろうか、リグがエルファの肩越しにひょいと皿を手に取った。
ライムとの鍛錬は終わったのだろうか。
それにしてはいつもよりも早くに切り上げてきたものだ。
エルファがどうして、という顔で彼を見つめていると、その視線に気付いたのか気付いていないのか、
リグがエルファの方を向いて微かに笑った。



「俺だってな、ちゃんと家の手伝いぐらいするんだから。
　最近エルファがうちを手伝ってくれるから、ちょっとサボってただけ。」


「そんなこと言って、手も洗わずに食器持って・・・。
　早く手を洗ってきなさい、もう夕食よ。
　夕食の手伝いには間に合わなかったから、片づけをやってね。」


「了解。」




　親離れはしてるつもりだけど、たまには家が恋しくなるじゃん？
食後の皿洗いをしている途中、リグがエルファにこっそりと言ったのだった。








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