5.好きときらい
「リグはさ、フィルちゃんのどこに惚れたわけ?」
「は?」
突如、何の前触れもなく発せられた問いに、リグは食べていたパンを喉に詰まらせた。
なんてことを尋ねてくるんだ、この馬鹿賢者は。
「質問変えよっか。どこが好きで、どこが嫌い?」
「口が悪い、おしゃべり、うるさい、生意気。以上。」
「・・・それは「嫌いなところ。」
バースは呆れた表情でリグを見やった。
よくもまぁ、付き合ってる彼女の悪口をぺらぺらと言えるものだ。
熟年夫婦じゃあるまいし、相手の気に喰わないところばかり探さなくてもいいじゃないか。
「・・・じゃあ好きなところは?」
リグははたと手を止めた。
好きなところだなんて、考えたこともない。
昔から嫌いな点しか見えてこなかった。
それがフィルというものなのだと、勝手に思い込んでいた節もある。
「ないとか言うなよ。」
「・・・存在?」
ぼそりと呟かれた言葉に、バースは固まった。
好きなところが存在とか、どういう愛の大きさなんだろうか。
そこらへんの物差しでは計れないスケールだ。
「あいつ以外を好きになったことないから断言できないけど、そういうもんじゃないのか。」
「・・・お前、よくしれっとそうやってとんでもないこと言えるよな。
ほんとそういうとこ尊敬するよ。」
後日、戯れに『私のどこが好き』と尋ねてきたフィルに同じ返事をしたが、訳がわからんと叱られたリグがいた。
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