7.胸を貸そうか、それとも背中を



 気性の荒い新しくやって来た馬を、あの手この手で手懐けようとする。
けれども、こちらの気も知らず新入りは好き勝手走り回っている。
走りぶりから見ると立派な軍馬になるだろうに、言うことを聞かないのならば人を乗せられない。
この馬の相手は骨が折れそうだ。
は牧場で腰に手を当て、暢気に草を食んでいる馬を見やった。
下手に執務の手伝いで机仕事をさせられるよりも、こちらの方が性には合っている。
昔から馬に囲まれた生活を送ってきたので、もしかしたら人間よりも馬の相手の方が上手くできるかもしれない。
しかし、やはりこの馬は難しい。
涼州ではなくて幽州か益州で育てた馬だから勝手が違うのだろうか。




「お前はどうしてそんなに自由なの? そりゃ戦場はおっかないけど、ここにいてもいいことは何にもないのよ」




 言葉に反応したのか、馬が急に走り出す。
驚いて尻餅をつくと、足にずきりとした痛みが走る。
しまった、こけた時に捻ってしまった。
この馬に係わってからというもの、ろくな事がない。



「ったくもう、こっちは子龍殿との時間潰してんのに・・・」

「私が何か?」

「え、子龍殿!?」




 地面に仰向けに寝転がって文句を垂らしていると、趙雲の顔がにゅっと現れる。
慌てて飛び起きるとその拍子に足にまた痛みが走り、思わず手をやる。




「足を痛めたのか?」

「ちょっとこの子の相手してたらびっくりしちゃって」

「それはいけない。さ、私につかまりなさい」




 ばっと両腕を広げられ固まる。
これは抱きかかえてくれるということなのだろうか。
しかし恥ずかしい。
動かないことを不満と受け取ったのか、趙雲は今度は背中を見せた。



「前でも後ろでも、どちらか楽な方を選びなさい」

「どっちも恥ずかしいですから、子龍殿の楽な方でお願いします」

「では前にしよう」




 軽々と抱き上げられ、そろりと首に腕を廻す。
今までいいことがなかったのはこれのためだったのか。
痛みも吹き飛んだ気がした。



「あ、ありがとうございます・・・」

「そう、そうやって素直に私を頼ってくれればいいのだ」




 怪我から治ったらあの馬をもっときちんと躾けて、それでもっとたくさんの時間趙雲と過ごせるようにしよう。
は趙雲の胸に身を委ね、ふふふと笑った。




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