1.あまいあまい薬
薬湯が入った椀を手に取ったまま早30分。
いつまでも薬を口にしないリグに、看病していたライムはついにキレた。
「ちょっとの量なんだから一気に飲みなさい!」
「こんな苦いの飲めるわけないって!」
幼児のように嫌だ絶対に飲むもんかと駄々を捏ねているリグを大人しくさせるのは、なかなか骨が折れる作業だ。
バースはともかく、エルファの手まで煩わせるとは何事か。
ライムはげほげほと咳を繰り返すリグを眺めため息をついた。
まったく、どこで風邪をもらってきたのやら。
「甘いのだったらちゃんと飲むけど・・・」
「甘くて美味しい薬があるわけないでしょ。子供じゃないんだから」
「どうせ俺は子供だよ」
「もう、ほんとに甘党なんだから、リグは」
「フィ・・・!?」
がちゃりと扉を開けて現れた娘に、リグはベッドから落ちかけた。
なぜ彼女がここに。これは夢なのか。
業を煮やしたライムが気絶させたが故に見ている幻なのか。
ベッドに腰掛けリグの手から椀を取ったフィルは、悪戯っぽく笑いかけた。
「な、なんでここにいんだよ・・・!?」
「リグの具合悪いって聞いて、来ちゃった」
「来ちゃったって・・・。ここどこだかわかってんのか!?」
「でも心配だったんだもん。・・・ねぇ、この薬、口移しで飲ませてあげよっか」
リグの脳内で暴走したイオナズンが発動した。
口移し、いやいや、そんな濃密な仲にまではなっていないはずだ。いずれはなりたいけど。
キスすらそんなにしないのに唐突すぎるだろう。
椀に口をつけようとしたフィルからリグはそれをもぎ取った。
こんな格好悪いところ見せてられるか・・・!
リグにとっては殺人的な苦みが口内を襲った。
「はい、よくできました。バースもお疲れ様」
「いっやー、口移ししろとか言われなくて良かった良かった」
「・・・・・・2人とも」
ベッドに腰掛けているのは愛しいフィルではなくて、銀髪の馬鹿賢者。
ライムの手に握られているのは変化の杖。
やられた、危うく禁断の領域に足を踏み入れるところだった。
「覚悟はできてるな・・・・・・?」
リグの真っ黒な瞳がぎらりと犯人を捉えた。
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