2.愛しい回想



 これはさる将軍付きの女官からもらった文。
こちらはとある高官に仕えている女性から預かった文。
よくもまあこれだけの女性から想いを寄せられているものだと、我が従兄の戦歴をとっくりと眺め従兄本人へと視線を移した。
兄馬超とはまるで体格が違う。
兄ほどがっしりとした体躯をしているわけではない。
もう少し食えと言われているくらいだから、将軍方に比べたら細身なのだろう。
ただ、細身ながらもその体にはしなやかな筋肉がついていることは知っていた。
敏捷性に優れた体から放たれる矢で、何度命を救われただろうか。
従兄は、一番信用のできる豪華な護衛だった。
馬岱はまた兄とは微妙に異なった、色素の薄い髪と瞳に、形良く整った涼やかな顔立ちをしていた。
にこりと微笑む姿はどこか上品で、あの笑みに多くの女性が虜になっているという。
みんな笑顔に騙されている。
そう声を大にして言わないのは、馬岱が時折媚びて下心満載で接近を図ってきた女を痛快に退けているからだ。
ああいう頭の悪い女になってはいけませんよと、何度小気味良い現場を目撃してきたことか。




「岱兄上、今日も大収穫」

「そうですか。では、全てお断りしておきましょうね」

「会うくらいしてみたら?」

「1人に会えばきりがなくなりますから」



 それに、と馬岱は呟いた。
たとえどれだけ多くの女性に想いのたけを伝えられても、受け入れることはないのだろう。
馬岱は、可愛らしい目に入れても痛くない従妹を見下ろした。
彼女は母親似だった。
馬超もあるだろうが、自分も一度だけ彼女の母親を見たことがある。
それはもう天上の人ではないかというほどに美しく目に映ったものだった。
様々な女性と付き合ってきたが長続きしないのは、心のどこかで彼女の姿が在るからかもしれない。




「私はあなたがいれば充分ですよ」

「そうやってはぐらかして、実は心に決めた人がとっくにいたりして」




 冗談交じりに言われた言葉にどきりとし、馬岱は女性に大人気の笑みを零した。





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