10.ずっと一緒に暮らそうか
見慣れたぶっきらぼうでぞんざいな手つきではなく、やや緊張した面持ちを手際で差し出された立方体の小さな箱を見下ろす。
これは何と尋ねると、見た目でわかんないかなと逆に尋ね返される。
わからないから訊いているのにわかっていない男だ。
透視能力がないのだから箱の中身などわかるはずがないのに、こいつは自分の恋人を何だと思っているのだ。
エスパーや宇宙人が通じる時代と年代はとうの昔に終わっている。
「何なのか言えないようなもん人に渡して楽しい?」
「どっちかっていうと、渡した時に見せてくれる反応が楽しみ」
「何が入ってるかわかんないやつほいほい開けるほど私子どもじゃありませんんー」
「下心じゃ何考えてるかわかんない男をほいほい家に上げるさんはまだまだ充分ガキです」
開けりゃいいんでしょ開けりゃと半ば自棄になって蓋を開けたは、中央にこじんまりと鎮座している銀色の輪っかを見つめ固まった。
マジですかと思わず敬語で呟くと、ご丁寧にマジですよと返ってくる。
どこにこれを買うお金があったのかは、恋人のプライドを守るためにも訊かない方が良さそうだ。
「指輪用意して出直してこいって言ったのはさんですから?」
「それいつの話」
「あんたはすぐに忘れたどころか言ったことすら覚えてなさそうだけど、俺はちゃんと覚えてた。
だから今度はもう聞き流させない。結婚しよう、ちゃん」
これからは俺の言葉ちゃんと聞いてくれるよな?
指輪を薬指にはめつつにやりと笑う恋人に、は催眠術にかけられたがごとき素直さで頷いた。
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