02.お名前なあに?
どこから入り込んだのか、侵入者を見つけた。
侵入者と呼ぶにはいささか幼く、どちらかといえば迷子に見える。
親とはぐれて寂しいのか、軒下に膝を抱え座り込んでいる姿が痛々しい。
彼の親はどこにいるのだろう。
身なりからして下働きの少年には見えないが、誰かの子息なのかもしれない。
遠くから観察していると、少年の顔がくしゃりと歪む。
もしや泣いてしまうのか。
親とはぐれて寂しくて、悲しくなって泣いてしまうのか。
曹孟徳の子供たちの中では限りなく末娘に近いこちらは、子供のあやし方など知らない。
泣いてしまったらどうすればいいのだろう。
はわたわたと作りたての肉まんを籠に忍ばせると少年の元へと向かった。
「もし、そこの坊や。どうなさいました?」
「ち、父上が」
「お父上」
「父上が出かけられたまま戻らなくて、待っている間に、は、腹が」
「痛いのですか? 典医を呼ばねば・・・」
「違う! は、腹が減って、父上もいなくて・・・」
「まあ、お腹が減っていたのですね。でしたらこれはお好きですか?」
餌付け用の肉まんを持ってきておいて良かった。
籠からできたての肉まんを取り出し少年へ渡すと、よほど腹を空かせていたのかものすごい勢いで平らげていく。
友人に負けない食べっぷりに、見ているこちらもお腹いっぱいになってくる。
あっという間に完食した少年は、の籠をちらりと見つめた。
視線に気付きもう1ついかがですかと尋ねると、満面の笑みで頷かれる。
細身だがよく食べる子だ。
一心不乱に2個目の肉まんを貪る少年の隣に腰を下ろし寛いでいると、背後から驚きの声を聞く。
は声の主を顧みると、少年と顔を見比べああと小さく呟いた。
「これは末の公主・・・。もしや師が公主に・・・?」
「司馬懿殿のご子息でいらっしゃいましたか。お姿が見えぬと寂しがっておいででしたので、お相手をしておりました」
「申し訳ありません。菓子まで頂戴して公主の手を煩わせるとはこれ師よ、公主に謝らぬか」
「構いません。司馬師殿、それほどわたくしの肉まんが気に入ったのであればまたいらして下さいね」
「はい!」
陰気と言われる父とは正反対の明るい笑い方をする子どもだ。
彼もまた、これから兄たちが総べる国を支えていく重臣となっていくのだろう。
は余った肉まんを大事に抱え父に連れられ帰る司馬氏を、温かな笑みを湛え見送った。
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