02.どうしてそんなに無防備なの？


　不安だ、とても不安だ。
凌統は今日もせっせと使い走りに勤しむ恋人の後ろ姿を見つめ、もう一度不安だと呟いた。
意外と愛想が良くて人当たりも良い子だとは知っていたが、こうも他人と仲良くしているのを見ると複雑な気分になる。
孫権軍には、良くも悪くも気さくで軟派な性格の人が多い。
それにあっさりと慣れてしまった恋人の適応能力の高さにまず驚かされたが、
驚きや安心感よりもやはり心配な気持ちの方が今も大きい。
にこりと品良く笑うあの笑顔にうっかり、どこの馬の骨ともわからない輩が惚れてしまったら。
虫も殺せないような容姿をしているのに、日々尚香と武芸を磨いている凛々しさにきゅんとときめかれてしまったら。
差し入れですとたまに持って来る美味しい肉まんの味に、嫁にしたいと思う馬鹿が出てきてしまったら。
考えれば考えるほど、不安要素しか出てこない。
使い走りを辞めさせようか。
しかし彼女が嬉々としてこなしている仕事を奪いたくはない。
では、仕事内容を変えさせようか。
駄目だ、うっかり宮仕えにさせて女同士の争いに巻き込まれると、最悪凶刃に倒れかねない。
女の恨みは怖いのだ。
後ろ盾も何もない彼女にとってそこは、ただの死地である。




「・・・殿、公績殿」

「ん？　あ、ああ、何だい？」

「こちらの書簡を呂蒙殿よりお預かりしてまいりました。・・・なにやらお疲れのご様子、どこかお加減が優れぬのですか・・・？」

「うん・・・、まあ、ちょっと心配事が多くて・・・。なあ、今の仕事やめて俺専属の女官とかやらない？」

「え・・・。・・・それはどのような意味で・・・。公績殿の部下になれということでございますか？」

「あ、いやそうじゃなくて恋人は恋人だよ、そんな顔させたくて言ったわけじゃなくて・・・！
　・・・ちょっと心配なんだよ、他の男に言い寄られたりしてないかなって・・・」

「そのようなこと！　・・・ですが嬉しゅうございます、公績殿にかように仰っていただけて」




　あんなに仲睦まじくしてるとこ見せ付けられてちゃ、口説こうにも口説けるわけがねぇよ。
往来で公然と２人だけの世界に入り浸っている凌統たちを、道行く兵たちはげんなりとした表情で見つめた。





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