03.朝の決まり
寝室の扉がこんこんと控えめにノックされる。
入っても平気と尋ねられたので了承の言葉代わりに扉を開けてやると、すっかり旅の支度を整えているライムとエルファが扉の前に立っている。
バースは女性人2人を招き入れると、ベッドの中で未だにぐっすり爆睡中のリグへ視線を向けた。
「またなの?」
「まただよ。低血圧なのかな、起きてもぼうっとしてるし」
「魔力を多く使う魔法使いタイプには低血圧の人多いって聞くけど、リグはルーラくらいしか唱えないよね・・・」
エルファはリグの体を軽く2,3度揺すぶった。
うんともすんとも言わない。
布団をしっかり被って眠り続けている。
無防備に眠れる宿屋だからかもしれないが、今日は起きる気配をまったく感じない。
「夜更かししてるんじゃないわよね、まさか」
「してないしてない。俺が風呂から帰ってくる頃にはもうリグは夢の中。おやすみも言わせてくれないお早い就寝」
「リグの変な勘の鋭さとは関係ないの?」
「俺も医者じゃないからそこまではわかんないけど・・・。あ、エルファ何やろうとしてんだ!?」
「ヒャドでリグのおでこに氷くっつけたらびっくりするかなって・・・」
エルファは小さな氷を作り出すと、それをそっとリグの額に載せてみた。
起きない、起きてくれない。
エルファは氷を取り上げると、今度は布団をべろんと捲った。
寝巻きの中に氷を入れてみると、リグがうわあと悲鳴を上げ飛び起きる。
あ、やっと起きた。
エルファはおはようと言うと、にっこりと微笑んだ。
「氷・・・。おいバースお前、俺をショック死させる気か!?」
「は!? いや、それエルファ、エルファだから!」
「ヒャド系唱えんのはお前の専売特許だろ! エルファがこんなことするわけない」
「エエエルファ、俺を助け・・・」
「行きましょエルファ。リグ、起きたなら早く準備しなさい」
真犯人が逃げていく。
俺にすべてを押しつけて逃げていく。
でも、エルファを引きずり戻すことができないのは惚れた弱みというやつだろう。
バースは怒り心頭のリグを見つめ、深くため息をついた。
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