07.信じられない!
天才は、馬鹿がいるからその称号を得ることができる。
世界中の人々が皆天才であれば、その者は天才と呼ばれることはない。
逆もまたしかりだ。
馬鹿は、天才がいるからそう呼ばれる。
そして我らが勇者は、数多の馬鹿者の中でもおそらく上位に食い込む筋金入りの馬鹿だ。
バースは今日こそそれを確信した。
「臨時収入があったからって俺らの相談なしに物買っていいと思ってんのか、ええ?」
「喜ぶ時もあるだろ。魔法の法衣を買ってやった時のエルファの顔見たか。
魔法の鎧買ってやった時のライムの笑顔覚えてるか」
「それはいい、大事な出費だ。でもなリグ、どうしてお前は毒針新調する?」
「他の物買うには金足りなかったんだよ。それに毒針、結構ガタきてたし・・・」
「もう毒針いらない! 足りないなら貯めて他の買え!」
メタルスライムをたくさん狩らなければならない時期はもう終わったのだ。
今はもう、メタルブームは終わったのだ。
メタルスライムに頼らずとも経験値は稼げる場所に来たのだ。
それがどうしてわからないんだ、うちの勇者は。
「返品してこい今すぐこの毒針」
「いや、これ返品付加なんだよオーダーメイドだし」
「は!? リグ、お前どれだけ毒針に愛情捧げてんだよほんと馬鹿か!」
「アホ賢者に言われたかないね。
それに俺は知ったんだ、世の中にははぐれメタルという、メタルスライムの兄貴分がいることを・・・」
見た目とは裏腹なメタルボディを毒針が貫通した時の快感をもう一度などと、下らない妄想をリグが始める。
駄目だもうこの勇者、稲妻の剣を売り払ってやろうか。
バースはせっせと毒針の手入れを始めたリグを鋭く睨みつけた。
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