2.欲しい。
少年は、『月刊・錬金の友』のページをめくりつつ、小さくため息を吐いた。
この雑誌は、彼が旅に出てから愛読している、もはやバイブルと言っても過言ではない。
超貴重なものからチーズの類まで、ありとあらゆる錬金レシピが載っているのだが。
「・・・欲しいんだよ、これが。」
「何が?」
雑誌片手にうんうん唸っているところに、ひょっこり黒髪の少女が顔を出した。
こちらの片手には、彼女にとって命の次の次の次ぐらいに大事であろう、魔術書が握られている。
ちなみにその中身は、彼女しか理解不可能であると思われる。
「何をそんなに欲しがってるの?」
「・・・言いたくない、僕の口からは、何があっても言いたくない。
むしろ、そんなの欲しがってるって君に知られたら、僕は再起不能になるよ。」
「何言ってるの? だって錬金に必要なんでしょ?
今まで散々人の武器とか防具とか入れてきたじゃない。」
「でも、これは武器とか防具とかじゃないんだ。
その・・・・・・・、ドラゴンの糞、みたいな。」
「・・・・・・・。
そんな材料で作られたチーズを食べるトーポが、かわいそうだね。」
やはり言い方が悪かったのだろうか。
だから彼女にだけは言いたくなかったのだ。
誰が好き好んでそんなワードを口にすると思ってるんだ。
でも、やっぱり欲しいんだ。
僕は世界中のありとあらゆるチーズをこの錬金釜ひとつで作ることが、生涯の夢かもしれないんだ。
そのためには、トーポだって我慢して食べてくれるさ。
その数日後、錬金釜は未知なるチーズを作るべく、ごとごとと音を立てていた。
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