6.無防備
ただいま、小さな声でベッドの上の妻に声を掛け、苦笑する。
いつもは自分が帰宅するまで健気にも起きて待っていてくれる彼女だが、今日は睡魔に勝てなかったようだ。
すやすやと安らかな寝息を立て、夢の世界へと旅立っている。
「・・・珍しくも無防備でいるのが、寝ている間とはな・・・。」
やはり元軍人でバリバリに働いていたせいだろうか。
なかなか彼女のガードは固い。
夫婦になったから、少しぐらい警戒心を解いてくれても良さそうなものなのだが、身構えるのが癖になっているという。
これは嘘だとは思いたくない。
今でこそこれだが、新婚当初など夜毎に苦労したものだ。
こうまで大人しくなってくれたのは、いい具合に慣れてきたからだろうか。
そう考えると、疲れていたはずの身体も急に元気になってくる。
なんというか、自分の教育の賜物のような気がするのだ。
イザークは、自分のその考えがやや変態じみているとは思ってもいない。
「これぐらいは構わんだろう。」
顔を近づけ、音を立てて彼女の頬に口付けを落とす。
本当は彼女の唇にと言いたいところだが、ぐっすりと眠っている彼女の体を動かすほど、イザークはガキではなかった。
それにあんまり調子に乗ると、彼女が起きかねない。
悪戯をして起こした後の彼女は、それはもう恐ろしいのだ。
この間とか、痣ができた。
「・・・明日はもっと早く帰ってくるからな。」
翌日、イザークにがっちりホールドされた我が身に気付き、ジュール家の若奥様がベッドから彼を突き飛ばしていた。
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