お題・7
7.閉ざされた視界



 アスカ家で、原因不明の謎の停電が発生した。
電気系統の回線がショートしてしまったのか、はたまた隣家の嫌がらせか、明かりが全く点かなくなったのだ。
シンが夜7時に家に帰って来た時にはすでに家は真っ暗で、おまけに人気すらなかった。
我が家から明かりがなくなったら、俺の太陽みたいなあの子もいなくなっちゃうのか!?
そんな阿呆みたいな不安を胸に、部屋という部屋を手探りで探し回る。
暗闇の中で下手に動くと、却って危ないという思想は、シンの中には存在しないようだ。




「あ、シン? お帰りー。」


「え、ちょっ、どこにいんのどこに!?」



 突如として聞こえた彼女の声に、シンは部屋中を駆け回った。
わ、動かないでじっとしてよねぇシン! という恋人の忠告も、今の彼の耳には入っていない。
ガチャンと何かが割れる音がしたのも、聞こえていない。
そもそも、この女性は暗闇なんて別になんてことないのだ。
目がいいから真っ暗闇の中でも、何がどこにあって、シンがどこら辺をうろちょろしているかもわかるのだ。
だから、猪突猛進、自分に向かって突撃してきた彼の姿も当然視界に入れていた。




「シン・・・! わぁっ。」


「げ・・・、ごめん! 怪我とかしてない!?」


「平気だよ。シンが今、私の上に乗っかってる。
 暗いところで動くの危ないから、電気が点くまでじっとしてなきゃ。」


「じっとって・・・・・、このままこの体勢で?」




そんなの無理だよ、とシンは小さく呟いた。
彼女を押し倒しておいてこのままにしろって、一体どういう据え膳なんだ、生殺しなんだ。
人間我慢するのは身体に良くないって言うだろ?
でもここで本能のままに動いちゃったりしたら、間違いなく俺は嫌われるし。
どうしようどうしよう、そうシンが己の理性と葛藤していると、彼の下でもぞもぞと彼女が動いた。



「シン、このままじっとしててね。
 私ちょっと、電機会社の人とか呼んで停電を直してもらうね。」


「う、動いたら危ないってさっき自分言ってたじゃん!」


「それは、シンが動いたら危ないってことだよー。
 黙ってようと思ってたけど、そこらへん花瓶があったんだけど、さっきシンが割っちゃったんだよ。」



だから動いちゃ駄目だよ、そう釘を刺すと彼女はシンを置き去りにしてどこかへ去っていった。
つくづく己の不甲斐なさとかその他いろいろに、多大なるショックを受けたシンだった。








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