1.感極まって滲んだ涙
人生、いい事をやり続けていると神様は必ず祝福を授けてくれる。
は突如として降って湧いた春の椿事に、緩んだ頬を引き締める方法を忘れてしまった。
「さん、好き嫌いってありますか?」
「いや、何だって食べます!」
「そうなんですか? 偉いなー、私って生のイカとタコが苦手で、それでいつもマルチェロさんに叱られてるんです」
だからそんなにお肌すべすべなんですねときらきら笑顔で振り向かれ、は『ひょわい!』と奇妙な返事を返してしまった。
いけない、突然に2人きりでお食事イベントに心臓が飛び跳ねすぎている。
落ち着け僕。そうだ、彼女だと思うからいけないのだ。
ここはひとつ、キッチンで腕によりをかけた料理と作っているのはナスにしておこう。
(・・・駄目だ、彼女がナスだなんて、二度とナスのおひたし食べられなくなる!)
ナスが駄目ならニンジンか。
いや、ニンジンだったらカレーもシチューも当分食べられなくなる。
だったら何だと思えばいいんだ。
食卓についたまま百面相を浮かべていると、ナスでもニンジンでもなく天使が目の前に現れた。
そうか、彼女は天使か。
「お口に合うかわかんないけど・・・・・・」
「な、なんだかすみません、お言葉に甘えちゃって」
「そんな、こっちこそありがとうございます。
マルチェロさんは出張で遠くの大聖堂に行っちゃったし、さんといるって言った方がマルチェロさんも安心すると思います」
「・・・それはないと思うけどなぁ・・・」
他人の事など全く興味を抱いていないマルチェロだが、に関わる人物になるとそれは別問題らしい。
現に彼はがの事を少なからず想っていると気付いているようだし、
そのせいか最近はより激しく扱き使われるようになった。
帰りが遅くなったんでさん招待して一緒にご飯食べました。
そんな報告がなされた翌日には、動けなくなるまで働かされそうである。
「・・・あの、今日僕と一緒にご飯食べたことは、マルチェロさんには内緒にしてもらえますか・・・?」
「さんがそう言うなら黙っておきますけど・・・」
「すみません」
仕事はきついしバイト代も安い。
しかし、からは離れたくないからクビだけは免れたい。
は情報の流出を防ぐよう頼むと、お手製のシチューを頬張るのだった。
元に戻る