2.悔しさに歯噛みする
単にタイミングが悪いだけなのか、それとも根本的に相性が良くないのか。
バースがエルファの元へ向かう道中にはいつも、同じ壁が立ちはだかる。
国の中では王に次ぐ位に高貴な身分にある、ちょっと変わった王女様。
いい人には間違いないのだが、バースにとって王女リゼリュシータは、エルファを巡ってのライバル以外の何者でもなかった。
「エルファ、ちょっとこの薬草なんだけどさ!」
「あらバースさん」
「・・・これはご機嫌麗しゅう、王女」
リゼリュシータはにっこりと笑うとバースの口元を指差した。
引きつった笑みは誤魔化せなかったらしい。
得意げに笑っている王女には、ほんの少しだけイラッとする。
王女は悪気があってやっているのではないのだ、多分。
ただ、エルファとできるだけ多くの時間を過ごしていたいという無邪気な独占欲があるだけなのだ、きっと。
無邪気という名の行為ほど、バースを傷つけるものはない。
「バースさんも毎日こちらに入り浸って、修業でいらしたのではないのですか?」
「王女こそ、王族ってのは1日中フリータイムなんですか」
「ええ。私から見れば、賢者も同じように思えるのですが」
うふふあははとお互い整った容貌を綻ばせ、牽制の笑みを浮かべる。
己を巡って仁義なき争奪戦が裏で行なわれていることを、エルファは一度も知ることはなかった。
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