お題・3
3.涙さえ失くした悲愴



 ぼちゃり。
水飛沫ひとつ上げることなく水底に沈んだ戦友に、リグは目を見開いた。
あれだけ大切に可愛がってきた毒針が湖に。
いい加減に捨てろよ馬鹿と怒鳴りバースが毒針をもぎ取ろうとし、
それをさせまいと腕を振り上げたと同時に手からすっぽり抜け飛んでしまった毒針。
よりにもよって取りに行けない水底深くへダイブしてしまうとは、なんと運のない武器なのだろう。
つい先日毒を塗り替えてもらったばかりだというのにもったいない。




「責任持って拾って来いよバース」

「いや、俺のせいじゃないから。リグの手からすっぽ抜けたんだからお前のせいだっての」

「そうよ。諦めて別れ告げなさい」

「ライムまで。あれないとメタル狩りできないって知ってるだろ?」




 リグは水面へ身を乗り出した。
なんだかんだ批判の目に晒されながらも生き抜いてきた毒針だ。
メタルスライムに止めを刺すよりも、バースにうっかり突き刺すことの方が多かった。
毒針がなくても旅はできるが、寂しいことこの上なかった。




「俺の毒針・・・・・・」

「あなたが落としたのはこの毒針ですか? それとも・・・」



 優しい女性の声に誘われ、リグは顔を上げた。
どこから現れたのか、女性の腕にはいくつかの毒針が抱えられている。
女性は毒針の1つを手に取るとリグに見せた。



「あなたが落としたのはこの、買って間もない殺傷能力抜群の毒針ですか?」

「いや、そんなに新品じゃない」

「では、売ってもお金にならないほどに使い込んだ毒針ですか?」

「俺、もうちょっと上手に扱ってるつもりなんだけど・・・」

「・・・では、本来の対象とは明らかに違う相手にばかり効力を発揮している天邪鬼な毒針ですか?」

「そう、それ!」




 リグの足元にばさばさと3本の毒針が落ちてきた。
女性はゆったりと笑うと、全部差し上げましょうと口にした。



「マジで?」

「マジです。正直者のあなたにはこれら全てを受け取る資格があります」

「ちょっ、何余計な事してんの、この人!」



 私は毒針の女神です。
女性は真面目に言い切ると、そのままリグたちの前から姿を消した。





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