4.啜り込んだ悲鳴と恐怖



悪魔やお化け、幽霊といった類はまったくもって怖くない。
いや、悪魔はちょっぴり厄介かなとは思ってるけど、それでもやっぱり恐怖の対象ではない。
そんな連中よりも怖いのは生きているものだと、私はよく知っている。
人は怒ればそれなりに怖くなる。
あのイタリア兄弟だって本気を出して怒れば涙も枯れ果ててしまうほどの恐怖を味わってしまうし、
日本さんも心の底から怒ると手がつけられなくなって、実家に逃げ帰ることすらできなくなる。
でも、怒っていなくても恐ろしい存在もこの世にはいるのだ。
その笑顔がすごく怖いんです。
お願いだから、あんまり私に構わないで。




ちゃんはどうして僕の国には遊びに来ないの?」

「寒いから・・・」

「そっか。寒すぎちゃったら作物は実らないもんね。
 じゃあ向日葵の花も咲くような暖かい土地を手に入れたらうちに来てくれる?」

「どこから暖かい土地は手に入れるの?」

「そうだなー・・・・・・」




 ロシアの手はとても大きい。
その手で肩やら掴まれた時は、冗談や比喩でなく全身が凍りつくような感覚に襲われる。
私が行けばそこがすぐに美味しい野菜で溢れるわけではないのだ。
変な勘違いや過度の期待を抱くのはやめていただきたい。



「ロシア、肩に食い込む手が痛いよ・・・」

「うん。でも僕、ちゃんが痛がる姿見るのが結構好きなんだ」

「私は好きじゃないから。その、乱暴はやだ」

「乱暴。やだなぁ、これはスキンシップだよ」



 顔は確かに笑っているのに、目の奥深くは冷たいままだ。
その顔を見ていると無性に悲鳴を上げたくなる。
死神に微笑まれた気分と言っても過言ではない。



「い、い、い、嫌・・・っ」

ちゃんが僕の家に遊びに来るって言うまで、ずーっとこうしていようかな」




 恐怖が頂点に達し、声も上げられなくなる。
どうしよう、絶対に逃げられない。
数日後、私は極寒のロシア国内に突っ立っていた。





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