5.腸が煮える怒り
研究がしたいんですと、珍しくも真顔で相談された。
外では真面目一直線だけど自宅ではぐうたらしてる日本さんが、真面目な顔して私に相談。
私じゃないと打ち明けられない悩みだなんて、ものすごく気になる。
どうしたんですかと尋ねると、日本さんは私の両手をぎゅっと握り締めた。
やだ、そんなに熱烈にお願いされるなんて日本さん相手なのにどきどきしちゃう。
「何ですか、そんな急に改まっちゃって・・・」
「あれこれありましたし色々DV的なことしたりしましたけど、今でもあなたが一番大切です」
「ちょ・・・、どうしたんですか、今日の日本さんおかしいですよ!?」
「ですから、大人しく私に体を預けてくれませんか」
両手どころか体ごと抱き締められた。
昼間からとはなんて大胆な。
全体重を掛けられたおかげで、畳の上にあっさりと押し倒される。
体を預けるって、つまりこういう事だったんだろうか。
『はい』とも『いいえ』とも答えないまま、なし崩し的に事が進むのは避けたい。
体力もスタミナもなさそうな日本さんだけど、私に対する執着心だけは誰よりも強いから、
今からやられたらあっという間に明日になる。
私は、覆い被さったまま本を開いている日本さんを見つめた。
この期に及んで読書とは、一体どういう料簡してるんだろう。
「日本さん、私、昼間からこういう事やる趣味ないです」
「ですが、夜になったら本が見えにくくなりますし・・・」
「何の本読んでんですか」
年季の入った古びた本を取り上げる。
物は大切にすべきだとわかっているけど、この本だけは破り捨てたい。
一番大切だと思ってる人になんてことをしようとしてたんだ、こいつ。
「コタツを出してる間にしかできないので、これからやろうと・・・。お、怒ってるんですか・・・?」
「・・・私、とーーーーーっても遺憾の意です。何が四十八手ですか、日本さんの馬鹿、アホ、変態、色狂い。
実家に帰らせていただきます」
本を叩きつけ日本さんを突き飛ばす。
いつになく真剣な日本さんに騙されかけた私も馬鹿だった。
もうこれから、あの人の真顔は信じないことにしようと決めた。
元に戻る