世界美味いもの行脚の旅　４


　日本さん、聞いてください。
いや、どっちかっていうと助けてください。
あなたが言っていたフラグとやら、今まさに立ってるんですが！？




　事の始まりは、私がイタリアの手料理を食べたいと言ったことだった。
イタリアンはパスタもピッツァも美味しいけど、せっかく料理が得意な彼がいるなら彼の料理を食べたいじゃない。
外食するよりも経済的だし、マナーとか作法とかにいまいち自信もないから。
そう言ったらものすごく喜んでくれて張り切っちゃって、それでイタリアの家に連れて来られた。
今も昔もほわほわというかヘタレてて、何をやってもドジばっかり。
そんな彼でも、料理の才能だけは抜群にある。
だから私、珍しく何も手伝わずにディナーを待ってた。
日本さんちにいたら絶対にありえないことだ。
いったい何百年花嫁修業やってんだ！てあちこちの国から言われるぐらいに、ずっとご飯作ってるもん。




　「ちゃん、おいしかったー？」

「うんうんすっごく美味しい！」

「ほんと！？」

「いいよねイタリアって。作物も取れるし美味しい食べ物は多いし、何よりも暖かいし。
　私こういう職業柄、イタリア大好き！」



　大好きと言うと、イタリアが顔を赤くして照れた。
あーもう、女の子大好きでよくナンパしてくるくせに、こういうとこ初心なんだよね。
可愛いというかなんと言うか、日本さんの言葉を借りれば弟キャラの長所を最大限に生かしてると思う。
というか私はイタリアに限らず、暖かくてある程度の作物が取れるところが大好きだ。
食料自給率が高いところに将来お嫁入りしたいとも考えてる。
あなたのような娘を余所に出したら相手に迷惑ですと、日本さんに猛反対されてるけど。




「じゃあちゃん、俺のことも大好き？」

「うん？　そうだね好きだよ、イタリア楽しいし一緒にいて飽きないし」

「俺もちゃんと一緒にいると、すっごく幸せな気分になるんだ。
　たぶん俺をこんなにまで幸せにさせてくれる女の子は、ちゃんだけだよ」

「そう、でもないと思うけど・・・」




　おーこれがイタリア男の本気なのかこっ恥ずかしいことさらりと言っちゃってと、どこか冷静に見てた、この時までは。
でも、イタリア男はすごかった。
気付いたら目の前に壁とかなにも目に入らなくて、イタリアしかいなくて。
あれーイタリアってこんなキャラだったっけ、こういうことやってそうなのむしろロマーノの方だよね。
さりげなくロマーノに対して酷いこと思いながらイタリアの顔見てたら、彼の顔がくしゃってなった。



「ちゃんをハグしてキスしたいであります！」

「え？」




　日本さん、助けてください。
私も一応奥ゆかしいことで有名（かも知れない）日本の女の子なんです。
ハグが挨拶なのはわかります、でも、イタリアは唇にキスが挨拶なんですか。
今までも、挨拶キスは頬どまりだったじゃないですか。
ちょっと来ないうちに習慣が変わっちゃったのかな。




「・・・ねぇイタリア」

「んー？」

「今のって挨拶？　夜の挨拶みたいなやつ？」

「ヴェー、違うよー。これは、ちゃんが大好きですっていうキスだよー」



　もっとキスしてハグしたいでありますとくっついてくるイタリアを見て、私の体温が数度下がった気がした。
絶対にありえないと思っていた人とのフラグが立つってどういうことだ。
あれか、この人酔ってるのか？　酔うほどたくさん酒を飲んだか？
じりじりとにじり迫ってくるイタリアから逃げようにも逃げられず、ソファーの隅に追いやられる。
誰でもいい、もう日本さんでもローマさんでも誰でもいいから助けろ。
バターンと扉が開かれると同時に、何やってんだ馬鹿弟という叫び声が上がった。




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