1.口付け
イザークの前に小さな箱が2つ並べ置かれた。
なんだこれはと首を傾げていると、箱を並べた張本人がさて問題ですと口を開いた。
「2つのうち1つはとっても甘くて美味しいチョコです。でももう1つは・・・・?」
「とびきり辛いのか? それともまた奇妙な薬でも混ぜ込んだのか?」
「残念、空っぽです。えへへ、みんなにあげてたら1つしか余ってなくて」
じゃあ問題とかせずに素直に残りの1つをくれればいいものを、とイザークはぶっそりと呟いた。
婚約者にあげるチョコならば、他の義理チョコ連中にあげるものと別にしないかという苛立ちもある。
というか、もしもこれで空の箱を選んでしまったらチョコがもらえないことになるのか。
それだけは避けたかった。
甘いものは好きではないが、彼女からもらうものならば胃袋もあっさりと消化してくれるというものだ。
たとえそれがハバネロ大量混入とかわさび99%チョコレート(そんなのチョコではない)とかでも、だ。
「で、イザークはどっちを選ぶ? ちなみに空っぽの場合は別のプレゼントを用意しました。
チョコはあげないけどね」
「別のとはなんだ? 俺が選ばなかったチョコは誰にやるつもりだ?」
「自分で食べるに決まってるでしょ。あげてないのはイザークだけなんだから。
別のプレゼントは、選んでみてからのお楽しみ。私結構奮発したのよー、我ながら素敵なプレゼントと思うわ」
イザークは同じラッピングをされた箱を見つめた。
重さでわかってしまうから手に取って見てはいけないと言われた。
自分だけチョコがもらえないのは悔しい。
しかし、プレゼントというのも気になる。
彼女が自ら素敵と言うのだ、少し人と感覚にズレはあるがよほど魅力的な贈り物なのだろう。
「じゃあ、右にする。開けるぞ」
どうぞどうぞーと軽い調子で言われ、若干どきどきしながら箱に手をかける。
が、蓋を開けてみるがチョコはおろか、紙切れ1枚入っていない。
今年はチョコはお預けかと思い少し落ち込んでいると、肩をとんとんと叩かれた。
振り向くと、にこりと微笑んでいる恋人の整った顔が間近にあった。
「残念でしたー。じゃ、別のプレゼントね」
目を閉じて近付く恋人にイザークは固まった。
はっと気が付くと、唇に柔らかいものが触れていた。
ちゅっとわざと音を立てて唇を離すと、びっくりしたでしょと言う。
おそらく時間的には一瞬だったのだろう、というか驚きすぎて全く記憶に残っていない。
ただ、彼女が触れた唇を舐めると仄かにチョコレートの香りがした。
「・・・今のは」
「だから奮発したって言ったでしょ。かなり恥ずかしかったけど、年に一度くらい出血大サービスということで」
「あまりに唐突すぎて、何がなんだか全然覚えてない。もう1回やってくれ、そしたらちゃんとわかるから」
するわけないでしょ恥ずかしいんだもんとすげなく却下する恋人に、悲喜こもごものイザークだった。
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