10.愛の言葉


　「趙雲殿」



　馬超から託された、というか押し付けられた少女がふと口を開いた。
最初の出会いからは想像できないぐらいに大人しい彼女は、調練中も騒いだり怖いだの言ったりせず、
黙々と自身の修行をこなしていた。
武術を習い始めたのは自分のせいではないと、趙雲は固く信じている。




「何だ？」

「趙雲殿は好きと言われるのと愛していますと言われるの、どっちが嬉しいですか？」

「は・・・？」



　趙雲は、自分がこの見た目はずいぶんと愛らしい少女を痛々しい目で見つめていると気が付いた。
しかし仕方がないとすぐに思い直す。
涼州の馬だらけの中で育ってきた天真爛漫なお姫様だから、人との会話が得意でないのだろう。
趙雲が知る限り、年頃の女性がこれまた年頃の男に向かって好きだの愛だの尋ねることはない。




「・・・そういうことは私ではなくて馬超殿に聞けばいいのではないかな？」

「兄上たちに聞いたら変な勘違いされますって。
　私は今後の参考のために調査してるだけだってのに」



　今後の参考、というのを聞くのはやめた。
しかし悲しい話ではないか。
いずれ訪れるであろう今後の相手に、もしかして自分は入っていないかもしれないのだから。



「・・・私はどちらであっても、好きな女性から言われるのであれば嬉しいが」

「そうですかー、ありがとうございます趙雲殿。
　そうやって恥ずかしがることもなくさっぱり答えてくれるところ、大好きです」




　不意打ちのごとく発せられた『好き』発言に、柄にもなく照れてしまいそうになった趙雲だった。





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