4.視線
壁にかけられた暦表をちらりちらりと見つめてはため息をつく。
先程から何度も同じ動作を繰り返している青年に、遂にククールは切れた。
「欲しいなら欲しいって直接言ってくればいいじゃねーか。
付き合ってるんならそのくらいしたって構わねぇよ」
「いやでもなかなか言いにくいよ。それに僕はククールみたいに軟派な男じゃないからさ」
「じゃあそれで今日もらえなかったらどうすんだよ」
それが問題なのだ。
時計は夜の10時過ぎを指している。
タイムリミットまであと2時間を切ってしまった。
もしも彼女が今日何の日かを忘れているとしたら、この時間まで何の音沙汰がないのもわかるわけで。
付き合ってるのにチョコの1つももらえないなんて、そんな彼氏世界中探しても自分ぐらいしかいないはずだ。
どうしたものかと相変わらず暦と時計をちらりと見ていると、視界にお目当ての少女が飛び込んできた。
「あれ、どうしたのこんな時間に。早く寝ないと明日に響いちゃうよ?」
チョコのチにも触れてこない少女の言葉に撃沈した。
憐れみの表情を浮かべたククールに小突かれ、暦を指差す。
「あの、差し出がましいようでなんだけど・・・。
今日はバレンタインデーなんだよね・・・、なんちゃって」
少女の顔からさあっと血の気が引いた。
慌てて時計を見て、もう時間がないことを知り肩を落とす。
「ご、ごめんなさい・・・。すっかり忘れてた・・・、とか言ったら怒るよね・・・?」
「い、いいよ。チョコなくても君がいればそれだけで。また来年、頂戴ね?」
心中ものすごいショックを受けた青年だった。
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