6.囁き
夜空に広がる星を見つめ、どこかに流れ星はなかろうかと目を凝らす。
野宿の日は、夕食をとった後は自由時間である。
といっても遠くへ出かけていいわけではなく、のんびりと体を休めるわけだが。
リグなどは朝が弱いので、武具の手入れをするとさっさと横になっている。
その日エルファは、いつもよりも目が冴えていたのかなかなか眠れずにいた。
「なーにやってんのエルファ」
「わっ、バース!?」
膝を抱えて座り込んでいるエルファの耳元で明るい、しかしどこか艶を含んだバースの囁き声がした。
耳にかかるバースの吐息の生暖かさに、エルファは思わず素っ頓狂な声を上げてしまう。
「びっくりさせたかな、ごめんごめん。空ばっか見てて、俺が近くに来ても気付いてくれなかったろ?」
「うん。流れ星探してたんだよ」
「ふぅん・・・、なんかお願いしたいことがあるんだ」
バースはエルファの隣に腰を下ろすと、彼女を同じように空を見上げた。
星の動きや星座について詳しいことは知らないが、綺麗だったらそれでいい。
こんな静かな夜に、しかもエルファと2人きりなのに星にまつわる薀蓄を述べるのは野暮というものだ。
「私も、バースみたいに強い賢者になりたいな」
「嘘だろ、そんなこと思ってないだろ」
思ってるよーとにこにこ顔で言うエルファに、バースはつられて笑った。
じゃあ今から特訓してやろうかとからかい混じりに囁きかけると、エルファの笑顔が見る見るうちに赤く染まる。
「ど、どうしたんだ?」
「な、ななななんか夜のバースの声、色気あるよ・・・」
「いつもと一緒のつもりだけど」
そういえば夜の1人歩きは危ないってリグが言ってた!
いきなり叫ぶとエルファの体がすすすっとバースから離れていく。
ちょっとばかり人よりも魅力があるばっかりに変な目に遭ったバースは、無言で空を見つめ、そして深い深いため息をついたのだった。
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