7.束縛
趙雲はくどくどと愚痴を言い連ねる少女に困惑していた。
明るい昼間ではなく、今は夕食も食べ終えた夜である。
なぜそんな時間に珍妙な客人がいるのか、そこから趙雲は理解に苦しんでいた。
「・・・聞いてますか趙雲殿」
「・・・あ、あぁ・・・。・・・ところで、いったいどこから来たのかな?」
「裏口からです」
なるほど、確かに裏口からならば人目にもつかないし、他人の家に侵入するのにもぴったりである。
案外目敏い涼州の姫を前に、趙雲は1人納得していた。
「趙雲殿に私を押しつけた次は、門限の設定。
日が暮れたら外に出るななんて、ここは不貞の輩がたむろする街ですか」
「いや、成都は治安の良い素晴らしい都市だ・・・。・・・今、すでに日が暮れているのだが」
「知ってます。家抜け出してきたもの。今頃兄上たち一生懸命探してるでしょうねー」
そう簡単に見つけられてたまるもんですかと毒づくと、少女はにこりと笑った。
何をどう考えればそんな満面の笑みが浮かぶのだろうか。
そもそも、なぜ我が家に来たのだろうか。
趙雲が理由を問いかけようと口を開いた瞬間、裏口から馬鹿でかい声が聞こえてきた。
「ははは! 姿かくして馬隠さずとはよく言ったものだな。
この馬孟起、妹の愛馬ぐらい一目で見分けられるわ!」
「兄上」「馬超殿」
入るぞ趙雲殿と叫ぶと、ちょこんと軒下に腰掛けている少女の腕を掴む。
また外に抜け出し追って兄を困らせるなと10秒ほど説教を垂れると、趙雲に向き直る。
「すまんな趙雲殿。しかしこれを匿うのはやめてくれまいか」
「いや、勝手にそちらが来ていたのだが・・・」
「そうよ私がお邪魔したの。気付かずに普通に迎えてくれたのは趙雲殿だけどっ」
「お前は少し黙っていろ。とにかく、今度抜け出したら部屋に鍵をつけるぞ」
嵐のごとくやって来て嵐のごとく少女を引き連れ去って行った馬超の背を、趙雲はぽかんとして見送っていた。
そして数分後、実は結構少女に酷いことを言われていたのではないかと気づいたのだった。
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