お題・9
9.抱擁



 隣ですやすやと眠っている妻の寝顔に頬を緩める。
寝ている時まで戦闘体制や防御の構えを取れとは言わないが、こう無防備な姿を晒されては襲いたくなる。
白い頬を突っつきたくなるし、紅い唇に口付けを落としたくもなる。
布団の中に隠れている部分にだって、触りたくなるものだ。




「ちょっとぐらい平気かな・・・。平気だよねこんなに寝てるし」



 彼女を動かせば起こしてしまうかもしれない。
極力控えめに移動し、妻の華奢な身体を抱き寄せた。
ふわりと香ってくる匂いが気持ち良くて堪らない。
彼女の血は花の蜜か何かでできているのではなかろうかと思うくらいだ。




「・・・なんか足りない」



 今更抱き寄せているだけでは満足できない身体になっていた。
これはちょっと悪戯のしすぎかもしれないなと思いつつも、薄着の下に手を這わせる。
背中に触れるか触れないかといった微妙な状況を1人楽しんでいると、愛しい人の口から声が漏れた。



「ん・・・・・・、朝・・・・・・?」

「おはよう、起こしちゃったかな」



 ぼんやりと寝ぼけているままの彼女に気を良くし、手の動きがエスカレートする。
やはり相手が寝ていては、罪悪感というものが多少行動を制限してしまうのだ。
無防備すぎる相手に酷なことを要求するほど、彼の理性は蝕まれてはいない。



「ふわ・・・っ!? ちょっ、朝からやだよ・・・・・。ねぇ、もう起きようよ!?」

「もうちょっと。そしたら君も気持ち良くなれるから。
 それに、僕がもうやめられないってわかってるよね」

「・・・わかりたくない、けど・・・・・・」




 仕方がないのかなと困ったように微笑む彼女の頬に、優しいキスを落とす。
さすがは妻だ、きちんとわかってくれている。



「・・・お仕事遅れて怒られても知らないからね」

「いいよ、その時はたーっぷり惚気話を聞かせるつもりだから」




 朝から愛情メーターが振り切れている、トロデーン城外れの小さな家だった。





元に戻る