10.好きです
末の娘はどうも、他の娘たちとは違うらしい。
曹操は彼女を養育している卞夫人と共に愛娘を眺めていた。
他の娘たちは皆、大きくなると華やかな衣や装飾具に興味を示すようになった。
しかしこの子はどうだろう。
今日も今日とてあの夏侯惇に懐いている。
子どもに優しく気さくな夏侯淵に懐くのならばまだわかる。
夏侯惇だ。
兵たちですら恐れる夏侯惇を元譲おじ上と呼び懐いている。
夏侯惇もまんざらでもなさそうなのが一層気味悪い。
「あれも着飾れば可愛かろうに、なぜ夏侯惇なのだ」
「夏侯惇殿だけでなく、最近は夏侯淵殿とも一緒にいるようですが」
「よもや、将来戦場に出たいなど言い出すのではあるまいな」
「まあ、まさか・・・」
むさ苦しい男たちに混じりにこやかに微笑む光景はなんとも奇妙だ。
ずるい、わしも一緒に笑いたい。
我慢できなくなって彼らの元へ向かうと、父上と笑顔で出迎えられ一気に頬が緩む。
親馬鹿だなと夏侯惇に揶揄されたが、事実なので反論はしない。
「何を話しておったのじゃ?」
「はい、今日は妙才おじ上のご子息のお話を。わたくしとそう変わらぬお方だとか」
「そう、夏侯覇・・・と申したか?」
「そうですそうです! いやあ、そろそろ初陣させようかと」
「初陣の前に公主と手合わせさせたらどうだと言っているだろう」
「だから、公主にお怪我でもさせたらどうすんだ惇兄ぃ」
「怪我など致しません。よろしいでしょうか、父上」
「ならん、絶対にならん」
やはり親馬鹿だな。何とでも呼ぶがいい。
親馬鹿とおじ馬鹿の不毛な会話に、夏侯淵はたははと苦笑いと浮かべた。
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