02.あんたが居ないと落ち着かないんだけど
いない。
部屋の外にも、庭にもいない。
凌統は大声で、けれども愛情を込め愛しい女性の名を呼んだ。
いったいどこへ行ったのだ。
今日は一日中ずっと軍師さんの執務室に詰めてるって言ってたじゃん。
凌統は空の執務机を呆けたように見下ろしていた。
「軍師さん、だからあんまり扱き使うのやめて下さいって言ってるでしょう!」
「お言葉ですが。あの方は今日は休みを取って出仕していませんよ」
「は!? だって俺、今日会う約束して・・・!」
「それはどうだか存じませんが、とにかく今日は一日中不在です」
信じられない。
凌統はよろよろと恋人の机へと凭れかかった。
よりにもよって休み。
体調を崩したわけでもないのに休み。
約束をしていたのに休み。
逃げられたか。
あまりにもしつこく構いすぎて、淡々とした行動が好きな彼女に疎まれたか。
ありうる。
なぜなら彼女はあの超合理主義者、曹孟徳の娘なのだ。
「せめて、どこに出かけたか・・・!」
「知りません。知っていても教えません。仕事溜まってるでしょう、凌統殿」
「・・・今日、軍師さんの家から攫ってくから」
「屋敷中に仕掛けた罠を攻略できたらどうぞご自由に」
いるといるで騒がしいが、いないといないとで騒がしい。
これでは無理やり休みを取らせた意味がないではないか。
陸家侵入作戦を立て始めた凌統を、陸遜は冷ややかに見つめた。
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