03.君しか要らない
こじんまりとした部屋から眺める桃の木を見つめる。
淡く優しい色合いをしたそれを眺めていると、とても安らぎを覚える。
綺麗ですとうっとりと呟くと、隣に座るいまいち情趣を理解しきっていない恋人がそっと手を重ねてきた。
「そっちばっかり見ないで、俺の方も見てくんない?」
「わたくしは、こうして美しいものを公績殿と共に愛でることが幸せなのですが・・・」
「俺はより綺麗なもんなんてないと思うけどね」
「私の手は汚れております。・・・それに、公績殿が思っておられるほど清らかでもありません」
「そう自覚してるだけは綺麗だよ」
美しいものを愛でてるを愛でようと嘯き、ごろりと横になり膝の上に頭を乗せてくる凌統をゆっくりと見下ろす。
花見がしたいと言って誘ったのに、凌統は花をちっとも見てくれない。
こちらにばかり顔を向けて、なにやら寂しくなってくる。
「公績殿は美しいものはお嫌いですか?」
「好きだよ。好きだからを見てる」
「またそのような戯言を・・・」
「ほんとだっての。綺麗なものは好きだよ、俺も男だしね。でも、綺麗なものは1つでいい」
目移りしてたらが妬くかもしれないしと呟いた凌統からぷいと顔を背ける。
何に対して妬くというのだ。
今、これ以上ないほどの愛情を注がれているのに。
彼の愛を一身に受けているのに、妬く対象など端からないではないか。
「だからも、花なんか見るのやめて俺を見てよ。妬くよ、俺」
「妬くだの妬かないだの、炎ではあるまいに・・・」
「・・・ってほんと、変なところで軍師さんに似てるよねえ・・・」
怒ったような顔でこちらを見下ろしてくるににっと笑いかける。
やっとこちらを向いてくれた。
凌統はの皺の寄った眉間に指を這わせ、綺麗だよと囁いた。
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