07.はた迷惑な黒魔術
どんと派手な火柱が上がり、何事かと慌てた人々が煙が立ち上る方角へと目をやる。
なんだ、今日も出火場所はあそこか。
出火原因が判明しあっさりと警戒心を捨てた彼らの肝は相当に太く、そして心が緩み切っていると思う。
どこで誰がわざとやろうと、火が出たことは事実なのだ。
風向きによっては延焼しないかとか灰が洗い干した洗濯物を汚さないとか、もう少し案じるべき点はあると思う。
は留守番を仰せつかった主のいない執務室で、腹立たしげにばんと書簡を机に叩き置いた。
「あの馬鹿軍師、どこが散歩ですって・・・!? 体良く仕事を抜け出したかと思えば苛立ち解消に火柱上げて!」
火柱を立てた後に帰ってくる彼は、体がやや燃えかす臭いがすっきりと晴れやかな表情を浮かべている。
一度は炎に飲み込まれあわやという目に遭ったというのに懲りない男だ。
また火だるまになりたいのかと言ってしまいたくなる。
私はあの男を火にかけてやりたい。
そうぶっそりと呟いた直後もうついていますよと真後ろで囁かれ、
は対象者のそう高くはない位置にある顎へ頭突きをお見舞いした。
「私の心は殿、あなたを一目見た時から熱く激しく燃え盛っています」
「その割にはまだ炭にならないのね。火力が足りないんじゃなくて?」
「おや・・・。まさか殿と火計談義ができる日が来るとは思っていませんでした。
殿も私という炎が燃え移ったようですね、嬉しい限りです」
消し炭になる前に、心とやらに氷水をかけてしまおうか。
はうっとりと火計について話し始めた陸遜に、身も凍るほどに冷やした水を突き出した。
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