お題・10
10.今日をびりびりに破いてしまえたらいいのに



 夢のような日々だった。
いっそ本当の夢なら、これもただの悪夢で片付けてしまえたのに。
ああでも良かった、子どもたちの泣き声はまだ聞こえる。
泣き叫ぶ声はいつものように大きくて、怪我をしてはいないのだろうとわかる。
良かった、世界で最も大切なものたちを守ることができて。
アリシアはもはやぴくりとも動きそうになくなった自身の体に命の終わりを悟ると、
せめて最期に可愛い子どもたちの姿を焼きつけようと視線だけ動かした。
愛する人と同じ白銀の髪。
愛する人と同じ澄み切った空のような色の瞳。
私はもう誰かを守ることはできないけれど、それでも、この子たちだけは最期の瞬間まで喪わずに済んだ。




「人間とは、かくもあっけないものとは」




 濁った空から悠然と舞い降りた存在に、周囲の魔物たちがゾーマ様と声を上げひれ伏す。
ぴりりと一層引き締まった魔物たちの空気に気付くことなく事切れた母の名を呼び続けるバースを、プローズが慌てて背に隠す。
お前がやったのか。
アリシアの血で濡れた顔で瞬きひとつせず、プローズは真っ直ぐゾーマを睨み据えた。




「ほう、まだ生きていたとはさすがはルビスの愛し子と言ったところか・・・」

「お前がやったのかと訊いている」

「だとすればそなたはどうする?」


「・・・みんな、死んでしまえ!」





 プローズが叫んだと同時に、ゾーマの傍に控えていたうごくせきぞうたちが砕け散る。
母に次いで起こった兄の異変を、バースはただ呆然と眺めていた。





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