02.もういいよ、かまわないで
おそらく愛されていたのだと思う。
可愛い子ども2人に恵まれ、少しずつではあるが一族の人々とも仲良くなれていたように思う。
あわや殺されかけた当時と比べればそれは、とても大きな進展だった。
精霊ルビスの話はとても興味深かったし、なによりも、自分たちが住まう世界の成り立ちについて
知ることができたのはとても嬉しかった。
アリシアは我先にとルビスの待つ塔の最上階へと向かう愛息たちの背中を見つめ、頬を緩めた。
この子たちが大きくなるまでには、アレフガルドに平和が訪れていてほしい。
その日が来るまでは、たとえ何があろうと子どもたちだけは守り抜かなければ。
ルビス様と、まるで親しんだ友に語りかけるように呼んだバースが祭壇に駆け寄る。
祭壇に頭を垂れたプローズがあ、と呟き空を見上げた瞬間黒い光が2人の据わる位置へと突き刺さったのは、
遠くから見ていたアリシアにはまるで悠久の時の流れのようだった。
「え・・・・・・?
「バース、母様」
「兄様、あれはいったい・・・」
「2人とも、今すぐ母の傍に」
狼狽え泣きじゃくる子どもたちを抱き寄せ、黒く澱んだ天を仰ぐ。
空からきらりと光る何かが振ってくると視認した直後、アリシアは一族から教えられた呪文を無意識のうちに叫んでいた。
「か、母様、僕たちは・・・」
「いいこと2人とも、今すぐに逃げなさい。そして、父様に伝えて」
「母様は」
「私もすぐに逃げます。さあ、早く!」
賢者でもないただの人間が作る結界は、結界と呼べるほどのものですらない。
少しの衝撃でぴしりと亀裂の入った結界に、バースの泣き声が大きくなる。
何があってもこの子たちだけは守らなくては。
光の正体はわからないがあれは確実に良くないもので、命を奪うものだ。
アリシアは泣きじゃくるプローズとバースに覆い被さった。
願わくば愛し子らに祝福を与えたもう。
アリシアの体に地獄の騎士の持つ6本の剣が、深々と突き刺さった。
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