04.世界は知るほど色を重ねる
おそらく、あの子が知る世界というのは驚くほどに狭く、窮屈なものだったのだろう。
誰よりも外に憧れていて目を離した隙に外に飛び出していて、そして、もう手の届かない所へ行ってしまった。
彼女が曹孟徳の娘でなければ、生きることはできたのかもしれない。
いや、そもそも戦場に出しなどしなかった。
出たいと言い出すような娘に育てるつもりもなかった。
今の境遇を経て育った彼女がいけないわけではない。
外に興味を持つことは決して悪いことではなかったし、許昌で留守を預かっていた時に外へ出したのはこちらの責任だ。
他に手段はなかったのかと今でも考える。
昔ならばともかく、今の自身と曹操との関係では何を言っても無駄だとわかっていても、だ。
「あ、荀ケ様・・・」
「おや。怪我の具合はもういいのですか?」
「まだ万全ではないのですけど、動いてないと暇ですし体が鈍ってしまいそうで。
・・・それで、ぶらついていたら殿から任務を仰せつかりました」
何もかも喪って、自らも失おうとしていた皆から愛されている娘は、ようやく前を向いて歩き出そうとしている。
彼女のことはもう心配ないだろう。
これからも周りの者が彼女を支えてくれる。
「あの、荀ケ様・・・、これを殿が渡してくれって・・・。
荀ケ様のお知り合いの方が使っていたものだから、返してやってくれと仰っていました」
「わざわざありがとうございます。、これからも無理はしないで下さいね。
あなたも私にとっては大切な娘のようなものですから」
「私も・・・? あれ、荀ケ様ってお嬢様いらしたんですか?」
「ええ、今はもう遠いところにいるのですが」
手渡された箱はとても軽い。
おそらく中身が入っていないのだろうし、それを寄越してきた曹操の思惑もわかっている。
だがそれでも良かった。
先に行ってしまった娘が愛用していたというそれをこちらへくれたのであれば、もうそれで良かった。
荀ケはから箱を受け取ると、愛おしそうに胸に抱いた。
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