08.雨に濡れた唇がやけに紅くて鮮やかで



 ああ、と物憂げな声が隣から聞こえる。
いつもなら好奇心いっぱいで輝いている瞳も、今日は伏し目がちだ。
何かが起こらなければそんな顔はしない。
きっととてつもなく悲しいことか大問題が起こったのだ。
彼女の親きょうだいやSP絡みのことであればできればあまり係わり合いにはなりたくないが、
避け続けて好転する類のものでもないので、嫌な予感がしても気付かないふりをして直進するしかない。
凌統は覚悟を決めの前に立つと、視線を合わせるべく屈みこんだ。




「どうした、そんな顔しちゃってせっかくの美人が台無しだっつの」

「今日、朱然殿よりお誘いを受けていたのです」

「朱然? あいつまだ性懲りもなく当たって砕けてんの? 身内にまで敵がいるとか勘弁してほしいんだけど」

「どうしても試してみたいことがあると熱弁なさっていて、わたくしも楽しみにしていました」

「彼氏がいながら堂々と他の男と遊ぶことについてはどうとも思わないんだ、さん。
 いつ言おういつ言おうとは思ってたけど、あんた結構感覚が世間ずれしてるって知ってた?」

「公績殿はあまりお好きではないと以前仰っておられたので、わたくしもお話する必要はないと判断したのですが・・・。
 まるで花火のように艶やかで、見惚れている間に敵陣に着弾するという新作の火計を思いつかれたそうなのです。
 ですがこの天気、このように湿った空気では炎など出せますまい」





 やはり父に頼んで屋内修練場を造っていただくべきでしょうか。
しかし、我が校につくっていただいても朱然殿は使えない・・・。
どうしましょう公績殿と言われても、何から何までスケールの違う話をしている彼女に的確なアドバイスなどできようはずもない。
求められているものが大きすぎる。
凌統ははああと深く大きくため息を吐くと、背後から感じた火薬の匂いに向けて衝撃波を送った。





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