5.ご主人様は時々理不尽
バリバリと容赦なく降り注ぐ雷撃を華麗にかわしながら、バースとライムはリグから逃げ回っていた。
リグ曰く、この世のものとは思えないほどに苦い薬湯を飲んでから、彼の体調はすこぶるよろしい。
病み上がりだというのに元気に追いかけっこである。
少々効きすぎかもしれない。
「やっていい事と悪いことがあるって言ってるだろ、毎日!」
「リグにフィルちゃんを会わせるのは『やっていい事』だろ、元々忍んで逢いに行ってたくらいだし」
「空気も読めねぇのかこの馬鹿賢者は!」
リグの怒りと呼応するように稲妻がきらめき、逃げるバースのマントを貫いた。
げ、と呟き立ち止まったバースに追い討ちをかけるように、今度はリグ自らが剣を振りかざし襲い掛かってくる。
「とりあえず1回死んで頭の中洗ってこい!」
「ライム、バイキルトするから俺を助けて一生のお願い!」
「喧嘩に真剣持ち出す馬鹿がどこにいるのよ、まったく・・・・・・」
ライムが剣を片手にリグと対峙した途端、リグはぴたりと動きを止めた。
ぶつくさと文句を口にしているが、どうやら人体に危害を加えることは断念したらしい。
「ライム、あの杖どこやった?」
「その辺に置いてたと思うけど」
「これか。・・・・・・私、バースのこと大嫌い」
「なっ・・・・・・!?」
にっこりと満面の笑みを浮かべ大嫌いとのたまうエルファそっくりのリグに、バースは真っ青になった。
エルファではないとわかっているのに泣きたくなってしまう。
溢れた涙で氷柱が作れそうなくらいに泣けそうだ、今なら。
「フィルに化けるのは禁止。でも俺がエルファに化けるのはありな」
「リグ、それ矛盾してるって、どっちも意味は同じだから!」
「泣け悲しめ、涙と一緒に馬鹿を構成してる成分も出してこい」
どす黒い笑みを浮かべ仁王立ちしているエルファの姿をしたリグを前に、バースはよろりと膝とついた。
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