04.壊れないように抱き締めた
世間知らずのお姫様は馬鹿だ。
いくらここが生まれ故郷よりも南にあって暖かな気候だろうと、川や海の水は冷たいに決まっている。
甘寧は、海辺に焚いた炎に手をかざし白い息を吐いている同僚の想い人を呆れ顔で見下ろした。
聡明な娘だと聞いていたし実際そう思っていたが、どうやら彼女のはどこかしら欠けている部分があるらしい。
甘寧殿が肌を晒しておいでだったので暖かいと思い、ついと零す娘に思わず馬鹿だろと言い捨てると、特段怒ることもせずそうですねと笑顔で返される。
これは思った以上に馬鹿だった。
常日頃馬鹿と言われている自分に馬鹿呼ばわりされている彼女が哀れにすら思えてくる。
甘寧はせっせと不必要に炎を大きくしている娘に、たまらず手を突き出した。
「公主さん、寒いならこれやるよ・・・」
「まあ、甘寧殿上衣をお持ちだったのですね」
「・・・殴っていい、公主さん」
「手合わせしていただけるのですか? 嬉しゅうございます」
「あんたやっぱり馬鹿だろ・・・」
そうかもしれませんねとやはり笑顔で応えたかつての公主は、お世辞にも上等とは言えない布切れのような甘寧の上衣をひらりと羽織った。
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