1.今度はきっと。
今日も彼は来ているのだろうか。
許昌の中でもとりわけ高くそびえ立つ宮殿から市街を見下ろし、小さく息を吐いた。
公主という身分柄、いつでも気軽に市街へ降りるということはできない。
いくら父や荀ケの許しを得ているとはいっても、毎日行くということはできようはずもなかった。
「公主、手習いのお時間でございます」
「わかりました。・・・父上たちはご無事でしょうか・・・」
「ご心配なさらずとも、曹操様ならば無事にお帰りになられましょう」
戦から早く帰ってきてほしいのかそうでないのか、よくわからなかった。
無事であってほしいとはもちろん思っている。
しかし、父らが帰還すれば当然1人で市街へは行けなくなる。
兄と共に行くのでは意味がないのだ。
1人で行ってこそ、公績を会うことができるというものだ。
「早く市街へ行きたいものです」
「公主、かようなことを仰ってはなりません」
「・・・そうですね」
口では納得してみせたが、心は真逆のことを思い続けていた。
早く今日の手習いとやらを終わらせて楽にならないものか。
早く明日にならないものか。
明日こそは市街へ行こうと静かに心に決め、気が進まない手習いへと向かうのだった。
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