お題・6
6.追いかけっこ



 馬超が今日も今日とて叫んでいた。叫ぶ内容はいつもと同じである。
可愛い可愛い、ちょっと生意気でお転婆な妹を大音声で探しているのだ。
見つかりたくない、会いたくないから姿を消している。
だからいくら大声で呼ばわろうと彼女が姿を見せるはずがない。
従兄がその事実に気付くのはいつのことやらと、これまた昨日と同じように腕を組んで
馬岱が冷ややかに従兄を眺めていた。
好きな男ができれば当然、暑苦しいだけの兄から離れて男の元へ行く。
なぜそれを従兄はわからないのだろうか。
そうやって毎日毎日大声で叫んでいるから、私までとばっちりを食らって従妹から遠ざけられているのだ。
いい加減妹離れすればいいのに。
馬岱はあくまでも妹を探し続ける馬超を宥めるべく重い腰を上げた。
上司の暴走を止めるのが部下の務め。
暴れるのは戦場だけでやってほしい。
馬岱の悩みが尽きることは当分なさそうだった。







 悩みを抱えているのは馬岱だけではなかった。
趙雲もまた、馬超によって日々迷惑を被っていた。
貴様俺の可愛い妹に手を出しおってと、意味不明の言いがかりを付けられた日にはお手上げだった。
2人の問題なのだからほっといてくれと言いたかった。
いや、確かに言ったのだ。
言ったのだが、猛烈な勢いで却下された。
彼の言い分はこうである。
俺という見守る者がいなくなれば妹は暴走する。
だからそうならぬように、兄として家族としてきちんと見届けてやる必要があるのだ。
暴走しているのは言ってる本人だと何度告げたかったことか。
将来こんな破天荒な男を義理の兄として仰がねばならないかもしれないと思うと、寒気がする。
趙雲殿も大変ですねと声を掛けてくれるが、何を考えているのかいまいちよく掴めない馬岱も、
家族になったらこってりと嫌味を言ってきそうだ。
もっとも、彼らと縁続きになるのが嫌だから彼女と別れる気など寸分とてない。
彼女自身はとても可愛らしいのだ。
今だってこうして、自分に体を預けてすやすやと寝息を立てている。
正直食べてしまいたくなるくらいの可憐さだ。
とてもあの男の妹とは思えない。





「・・・今日は乱入されませんように」



 趙雲の願いは叶うのか。
2人がいる丘のふもとでは、やたらと豪華な兜を身につけた男が馬を走らせていた。





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