お題・7
7.優しさと、離れた手。



 たおやかなその手を離すことで世界が変わるというのならば、僕はその変化を決して受け入れはしないだろう。
世界の変革と彼女との日常。
秤にかけるまでもなく、後者の方が大切なものに決まっている。
これが僕の中の唯一で絶対の事実だからだ。



 たとえ世界が変わっても、その世界に彼女がいないのならば変えた意味がない。
むしろ、変わってしまった世界をこの手で潰したくなる衝動に駆られるだろう。
一度芽生えた破壊への陶酔は、何者にも止められはしない。
・・・そうだ、彼女がいない世界なんて、僕が片っ端から壊してしまえばいいんだ。
そして、無からまた新たに可能性を探していけばいい。



 僕の思いはこれで決まった。
僕は、望まずに与えられた世界にはとことん反旗を翻す。







 「・・・と言って、サザンビークへの出張を拒むのだ。あの馬鹿をどうにかしろ」

「うーん・・・。言ってることから考えると、私がいない世界、つまりサザンビークなんて必要ないから
 破壊しちゃおうってことですよね?」

「そういうことだ。・・・妻を愛することが悪いとは私も思わない。しかし、もう少し嫁離れさせてやることはできんのか」

「妻冥利に尽きるってこういうこと言うんですねー・・・。
 でも、さすがにそう言って毎回仕事サボってばっかりだったらいけませんし、私よーく言っときます」

「すぐにでもそうしてくれ。あれが行くと決めねば、いつまで経ってもサザンビークへ出張できんのだ」

「・・・本当に、いつもお手数おかけしてすみません、マルチェロさん」





 トロデーン名物の迅雷の近衛隊長殿は、今日も絶好調だ。





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