8.御伽噺
むかしむかし、ある所にかっこ良くて優しい青年が住んでいました。
青年は家族こそいませんでしたが、お城の下働きや兵士として一生懸命働いていました。
そんなある日、青年はお城で大切に保管されていた杖を見つけました。
「なんて強そうな杖なんだろう・・・」
じっと杖を見ていると、誰かが青年に語りかけてきました。
とても綺麗な可愛らしい声でした。
『助けて・・・。ここから出して・・・』
「え? 君はだぁれ?」
『私はこの杖に閉じ込められている天使。お願い、ここから出して・・・!』
女の子は寂しくて悲しそうでした。
ずっと長い間杖の中にいたに違いありません。
この女の子と会ってみたい、と青年は思いました。
「わかった! じゃあ僕が君をここから出してあげるね!」
『ありがとう、優しい人・・・!!』
青年は杖を握り締め強く念じました。
すると、杖からまばゆいばかりの光が満ち溢れました。
「・・・ねぇ、このお話って、このまま考えるとやばいんじゃないかな・・・?」
「え、どうして?」
書きかけの物語を読んだ女性が控えめに呟いた。
しかし執筆者本人は、何がいけないのか全く思いつかない様子である。
「私は確かに杖の中にいたんだけど・・・。
杖から出てきたのはラプソーンも同じだし、あの場で杖を実際に使ったのはあなたじゃなくてドルマゲスだよ?」
このままじゃダークファンタジーになっちゃうよと苦笑する妻に、青年は慌てて文章を読み直した。
なるほど言われてみればそうだ。
将来きっと生まれてくるであろう我が子のために、壮大すぎる夫婦の馴れ初め話をわかりやすく童話調で書いていたのだが、
これでは悪者たちが主役になってしまう。
「か、書き直すよ!」
「あと、脚色も激しすぎると思うよ・・・」
アドバイスはしてみるものの、そのそも彼に文才はないのではないかと疑ってやまないのだった。
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