9.大好きだよ?
凌統は店先に並んでいる煌びやかな装飾品を眺めていた。
遥か西方から伝えられた、見たこともないような素材のものも艶やかなものもある。
さすがは許昌、品物の並びも故郷の品揃えとは全く違った。
「兄ちゃん、誰かに贈り物かい?」
「ま、そんなところ」
「へぇ、そりゃ兄ちゃんのいい人に?」
「他に誰にやるっての」
凌統は手に取った耳輪を天にかざした。
彼女の容姿を事細かに頭に思い浮かべる作業は、そう難しいものではなかった。
逢えばずっと、瞬きを忘れてしまうくらいに見つめているのだ。
やはり彼女には、いつもに身に纏っているような青色が最も似合うのだろうか。
それとも、彼女そのままのように汚れなき純白がいいのだろうか。
今までまともに女性に物を贈ったことがなかった彼は悩んでいた。
おそらく何を贈っても喜んでくれるだろうが、どうせ贈るのならばどんな物よりも似合っていてほしい。
「兄ちゃんがあげたい方は、どんなお人かい?」
「すごくお淑やかなとびきりの美人。でもって、たぶんどっかのご令嬢」
「てことは、そのお嬢さんは相当目が肥えてらっしゃるんじゃないのかい?」
こりゃ売る方も気合が入るねと意気込む店主に笑いかけると、凌統は再び品物に目を落とした。
そういえばご令嬢(仮)のはずなのに、彼女は装飾の類をほとんど身に着けていない。
装飾品などつける必要がないくらいに可憐なのだ。
彼女が身に着けているものといえば毎度違う、これもやはり青い紙紐くらいだった。
「・・・お揃いってのもありかも」
凌統は深紅の紐を取り上げた。
北方に住んでいるのにどことなく南方出身特有のはっきりとした顔立ちをしている彼女ならば、赤だって似合うはずだ。
それに今自分が使っているものにも似ているときた。
凌統は懐から銭を取り出すと店主に手渡した。
「お嬢さんに似合うといいね!」
「俺が選んだんだから似合うに決まってるっての」
後日、贈った紐と彼女の似合いぶりに1人満足し、そして悲しく思った凌統だった。
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