お題・2
3.追いかけた人



馬車の中になにやら薄めの雑誌が積まれている。
必死にページをめくりめくりしては、目の前の錬金釜にごちゃごちゃと物を放り込む。
バンダナをつけた少年が愛読しているのは、『月刊・錬金の友』である。
ちなみに今月号の特集は、「大好きなあの子に贈る錬金アイテム」らしい。
難しげな顔をして道具袋とにらめっこしている彼の隣には、分厚い魔術書を読んでいる少女が座っている。



「ねぇ、何作ってるんだっけ? 新しい扇だった? そんなに無理しなくてもいいのに。」

「よし! ねぇ、今使ってる扇この釜の中に入れてくれる? そしたら新作できるんだ。」


少女の腰にささっている扇を見つめながら必死に頼み込む。
いや、彼が頼みだしてから、彼女の体は外へ飛び出す体勢に入っている。
大事な大事な扇を、何ができるかもわからない摩訶不思議な釜の中になんぞ入れたくもない。
しかもこれがなくなると、彼女の元々少ない攻撃力はさらになくなってしまうのだ。


「・・・これがない間、私はどうやって戦うの? 素手?」

「戦わなくていいから。てか僕に守らせてよ。」

「やだ。こないだから私も戦うって言ってるじゃない。このわからず屋。」


彼の手が扇にかかる前に脱走し始めた彼女を慌てて追いかける。
結局新作扇はどうなったのか。
今、錬金釜はごとごと音を立てている。





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