01.心さえなくしたら
言っていること、やっていること、やろうとしていること、やりたいことのすべてがちぐはぐな男だ。
いつも自分に嘘をついて平気なふりをして、いっそ一度彼の心は壊れてしまえばいいとすら思ってしまう。
壊れてしまえばきっと、自らの行動がいかに自身を傷つけているかわかるだろうから。
ガライはライムが休み2人きりになり、ようやくモシャスを解いた銀髪の青年にお疲れ様と声をかけた。
労いの言葉にもああとしか返さないプローズは、モシャスをかけるのがもったいないほどに端正な顔立ちをしている。
元の姿でライムと並べば歌が十はできる似合いの2人なのだが、プローズは目立つことを好まない。
いつも黒装束で身を固め、もっと華やかな、例えば彼の実家の正装をすればいいのにと何度勧めたかもう思い出せない。
「プローズは今、生きてて楽しい?」
「楽しさなんてとうに忘れた」
「君はいつからか感情表現が下手になったよね。もっと自分をさらけ出した方が気が楽になるよ」
「心なんて、感情なんてなくなってしまえばいい」
「プローズ」
「そうしたらもう、誰の何についても何も考えなくていい。すべてに無関心でいられる。
・・・僕は怖いんだ、失うことが」
「僕が怖いのは、君が本当に心を捨ててしまうことだよ」
今ですらありとあらゆるものを捨て去りつつある彼が、これ以上何かを捨ててはいけない。
ガライはぽろんと哀しげに笛を奏でると、星空に向かって手を伸ばした。
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