02.射る
おい待て公主、お前父親を間違えてはいないか。
夏侯惇はおずおずと差し出された眼帯と手の主、そして手の主の父親を順に見つめ額に手を当てた。
「・・・何のつもりだ」
「妙才おじ上に、先日の戦で元譲おじ上の眼帯の紐が切れたと伺いました。ですからこれを」
「・・・俺の部屋から眼帯を持ち出したのは仲権か。・・・縫ったのか?」
「切れぬようにと強く縫ったのですが、いかがでしょうか」
「・・・お前は仮にも孟徳の娘、姫だ。何をしているんだ」
「ですから、元譲おじ上の「それはもういい」
お気に召しませんでしたかと不安げに尋ねるの手から修繕された眼帯を取り上げ、仮につけていたそれを取り換える。
驚くほどにぴったりで、風変わりな公主の器量の良さにまた驚く。
曹操は夏侯惇の眼帯をちろりと睨み上げると、無事眼帯を渡すことに成功し安堵の表情を浮かべている愛娘へと向き直った。
「、夏侯惇は夏侯惇ぞ」
「存じております」
「、わしはそなたの父じゃ」
「存じております」
「・・・ぬんっ」
「やめんか孟徳、みっともないぞ」
「ええい黙れこの果報者が! 、私の袖も破けてしもうた。なんとかならぬものか・・・」
袖を強く引かれたからでございましょうと淡々と分析するに向かって大げさに咳払いし、改めてもはや乞い願う思いで見つめる。
いかなる事が起ころうと冷静に構える態度は、さすがは自身の血を引くだけはあると感心する。
異母兄子桓とも恐ろしいまでに似てもいる。
しかし、今求めているのは分析ではなく温かな娘だ。
「・・・公主、縫ってやれ」
「わたくしがでございますか?」
「そうだ。適当にしてやれ、この馬鹿父に」
「今の言葉聞き捨てならぬぞ夏侯惇! 、そなたの力この父に存分に見せるがよい!」
眼帯、元譲おじ上の動きにも合うようで良うございました。
曹操に体を揺すられ続けている夏侯惇と眼帯を見上げたが、ゆったりと微笑んだ。
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