03.とっておきの嘘


　北国生まれの北国育ちに南方の暑さは身に堪える。
こちらの方が太陽が地面に近い気がする。
は暑さでふらつく体を引きずり木陰に寄ると、はしたないとわかっていながらも我慢できず体を木に預け
ずるずると座り込んだ。
暑さに慣れず勝てないとわかっているからいつもよりも少しだけ薄着してできるだけ日陰を選んで歩いていたのだが、
それら努力は蜃気楼のように儚く消えてしまった。
この暑さがこれから先まだ三月ほど続くというが、三月後果たして生きていられるのか不安でたまらない。
鍛えているかということもあるのだろうが、凌統たちの体力には感心してしまう。
毎日猛暑の中走り回るだけでなく騒ぎ、同じ武人でもこうまで違うと悲しくなる。




「公績殿・・・」

「やっと俺のこと呼んでくれた。このまま気付かれなかったらどうしようかと思ってたよ」





　公績殿はやはり素晴らしいお方でしたと呟こうとし、口を開くことすら億劫になり名前だけ呼ぶと
どこからともなく返事が返ってくる。
おそらく木の上にいたのだろう、空から舞い降り目の前で華麗に着地した凌統には目を細めた。
長身の凌統が生み出す影が、火照った体にひんやりとした安らぎを与えてくれる。
さすがは凌統だ。
凌統は木の幹に片手を置くと、身を屈め悪戯が成功した子どものような無邪気な笑みを浮かべた。




「、捕えたりって？」

「しばらく、このままでいていただけませんか・・・？」

「あれ？　怒らない？　もしかしてこういうの好き？」

「公績殿はわたくしに安らぎの場を与えて下さいます。わたくしは、とても嬉しゅうございます・・・」

「・・・。こういうイケナイことも受け入れてくれるようになったなんてどういう心境の変化だい・・・？
　俺、の変化に嬉しいやら悲しいやら申し訳ないやらで、でもずっとこうしてる」

「どうぞ、お気の済むままに・・・」




　凌統のおかげで火照っていた体も頭もじんわりと冷めてきた。
はなにやら１人で浮かれている凌統を傍に感じながら、深い眠りの世界に落ちた。




元に戻る