04.愛と優しさと悲しみを教えてくれたひとへ
大好きな人をじっと熱っぽく見つめている目が好きだ。
大好きな人に甘え、傷ついている時は優しく声をかけ気遣う姿が好きだ。
それらを見ているとこちらに対する接し方とのあまりの落差に悲しくなってしまうが、
それでも幸せそうな彼女を見ているととても嬉しい。
神童は決してこちらに向けられることのない一方的に愛する少女の顔をじっと見つめ、
何もしていないにもかかわらず邪魔と言い放たれていた。
「人をじろじろ見ないで、気味悪い」
「ごめん。でも、これからもずっと見るつもりだから慣れてほしいんだ」
「拓人さんに見られると気が散るの」
「じゃあ、俺を気にせずにいてくれ。俺はここでじっと見ているから」
「拓人さん、あなたって本当にどうして私の嫌がることしかしないの?」
これ以上私を拘束しないでと言い募る彼女の顔は、彼女が大好きな人に向けるものとはまったく違う剣呑なものだ。
怒っている彼女の顔を見ることができるのは、世界中を探しても自分だけ。
独占できる表情をもっと堪能したくなり、非難の声も聞かずにじっと見つめる。
どんな表情を浮かべていても目を引きつけて離さない彼女のことが愛おしくて、
神童はやはりここに連れて来て良かったと自身の行動を再評価した。
「いい加減にして。・・・これ以上私の邪魔をしないで」
「邪魔だと思われていようと、俺は、自分が認識されているというだけで嬉しいよ」
だからこのままずっと、俺のことで頭も心もいっぱいになってくれ。
神童はそう心中で呟くと、わずかに口元を緩めた。
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