03.嫌いにしかなれなかったら楽だったのに
最近どうなんだとニヤニヤ笑いで訊かれ、どうもありませんと返す。
他人事だと思って楽しみやがって、当人は毎日が激戦なのに外野は何もわかっていない。
いい働き口紹介してやろうかと持ちかけられ、凌統将軍の進める職場ならばさぞかし天国だろうと安易に考え
頷いた当時の自分は愚かだった。
悩める女官は、逆らってはならないはずの上官の前にもかかわらずどんと乱暴に書簡を置くと、最悪の間違いでしたと零した。
「最悪ってそりゃまた随分なことで。軍師さんのとこで働きたいって子はたっくさんいるんだよ」
「だったらその子たちに今すぐ譲りたいです。奥方、よくあの人の下で耐えられましたね」
「奥方っていや、まあそのうちそうするんだけど・・・、気が早いことで」
「朝から有までつきっきり、お昼だってべったりでいい加減乞われそうです。
どうして甘寧様のところを勧めて下さらなかったんです」
「甘寧によくできた部下なんてもったいないだろ。そいつ働きすぎてそれこそ壊れるっての。
ゆくゆくは奥さんの大事な数少ないお友だちを過労死させるわけにはいかないっての」
「奥方、今甘寧様の元によく行かれてるそうですけど」
「あんな粗忽者の乱暴者の何が楽しいんだか・・・。珍しいのかね、姫様育ちにはああいう奴が」
人前で上司の悪口を叩くこちらもこちらだが、人前で堂々と恋人の惚気話をして姫呼ばわりする
凌統の愛妻(予定)ぶりもあんまりだと思う。
所詮は幸せボケ野郎に不幸者の悩みなどわかるはずがなかったのだ。
怒りの女官はもういいですと言い放つと、大股で盲目に幸せボケ野郎の執務室を後にした。
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