07.昼の月の影
今日も出ていない。
昨日も出ていなかったし、思えばこちらへ来てから星を見たことが一度もない気がする。
リグは星の瞬きひとつない空を見上げると、今日もかあと独りごちた。
旅人に取って星は大切な地図だ。
天に描かれた不変の地図を頼りに歩を進めると言ってもおかしくはないのに、星がなければ行き当たりばったりに進むだけだ。
バースの地図の精度を疑っているわけではないが、それでもやはりリグは見慣れた光が空に灯っていないことに
不安を隠せないでいた。
「なあバース、夜なのにどうして毎日星が出ないんだ? 月だってないし、ゾーマはそれも隠したのか?」
「この暗闇は夜のようで夜じゃないただの闇だからだよ。本当は今も朝が来て昼が来て夜が来てる。
でもゾーマは空の下に暗闇のカーテンみたいな壁を作ってアレフガルドを世界から隔離したから、
今俺らが見てるのは空じゃなくて壁」
「ふーん・・・?」
「ゾーマがもっと茶目っ気ある奴だったら、暗い空じゃなくて花柄の空だったかもしれないってこと?」
「そうそう。花柄よりはましだろ、花柄見上げてたら気がおかしくなるよたぶん」
ゾーマがいかにもって感じの魔王で良かったよ、花柄好きな魔王とか気味悪すぎて会いたくないよ。
リグは花柄の空を思い浮かべ眉を潜めると、星のない空で良かったと少しだけ安堵した。
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