01.ほんとうは優しい
騎士たるもの、知ることができるすべての事柄については知識を備えておくべきだ。
迷い訪れる人々に正しい道を指し示すことができるよう、老若男女問わず対応できるだけの力は
持っておくに越したことはない。
まさか、それら知識がこんなところで役に立つとは思わなかったが。
マルチェロは手ずから編み上げた花冠をじっと見つめると、大きく鷹揚に頷き少しだけ口元を緩めた。
どこから来たのかわからない、今は修道院の南の小屋に住まう少女は驚くほどに世間に疎い。
ここがどこだかわからず、有名な大国の名も知らず、豊富な魔力を持っているにもかかわらず
呪文の1つも知らない彼女はマルチェロにとって目が離すことができない養い子だった。
子と言うにはこちらも若く向こうも大きいが、何も知らないさまはまるで子どもだ。
事あるごとにあれは何ですか、これはどういったものでしょうかと無邪気に尋ねてくる彼女のことは
初めこそ不審視していたが、今ではすっかり親気分で接している。
兄気分にはなんとなくなりにくい。
『兄』という肩書は好きでないのだ。
「あれ、マルチェロさん来てたんですか? 全然気付かなくてすみません」
「いや気にするな、私も特に用があったわけではない。ただ、これを欲しがっていたからと思い出してな」
「わあ綺麗な冠! これマルチェロさんが作ってくれたんですか?」
「気に入らないのであれば捨てろ。私は趣味があまり良くないらしいからな」
「いいえすごく綺麗です! マルチェロさんなんでもできちゃうんですね、すごいです!」
どうですか、似合いますかマルチェロさん?
そう言って受け取ったばかりの花冠を早速頭に乗せ微笑む少女に、マルチェロはそうだなとだけ返した。
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