お題・10
10.おかえりなさい



 しばらくぶりのイタリアだ。
まさか1人で帰国することになるとは思いもしなかったが、鬼道は日本でやることがあるらしいので仕方がない。
自分がいない間にチームが解散してはいないだろうか。
せっかく上部リーグへ昇格してまともなスポンサーもついて消滅の危機は免れたというのに、
また最下位のどん底に落ちて下部へ逆戻りなどしていないだろうか。
情報は逐一受けていたからそれらはすべて杞憂だとわかっているが、実際に見ていないので不安なものは不安だ。
そもそも私ってまだ監督やってることになってるのかな。
色々あってフィーくんその他がいろいろ理由こねくり回して取り計らってくれたらしいけど、
フィーくんたちの考える理由ってのも不安要素の1つだったりするんだよな。
フィディオはいつでもどこでもお姫様扱いをしてくれる地球上のイケメン紳士2トップの風丸と並んでの1人だが、
彼の行動は時々ゴシップな雑誌を召喚してしまうので鬼道はあまり良くは思っていない。
今回も余計な大騒動になっていなければいいが、出国ゲートを潜ったらいきなり報道陣だったりしたらどう対処すればいいのだろうか。
キドウと破局してフィディオと復縁ですか!?なんて訊かれても、そもそもフィディオとは何もないのだから答えようがない。
どきどきしながら空港に降り立ち、目の前に現れた人物に瞠目する。
ああ、やはりいた。
しかし1人で良かった。
彼は来てくれるだろうとは思っていたが、余計なカメラなどなどを連れて来ていなくて本当に良かった。
はぁいと声をかけ片手を上げると、待ちかねていたようにフィディオが走り寄り手からボストンバッグを取り上げた。




「おかえり! あんまり遅いもんだから何かあったのかと思っちゃったよ」

「ごめんね。でも到着時刻ぴったりだったんだよー」

「今日じゃなくて今日までの話さ! 大丈夫だった? マモルたちはちゃんと守ってくれた? 豪炎寺に悪さされなかった?
 鬼道がもう帰って来ないって本当かい?」

「うん、円堂くんは相変わらず円堂くんで戦略とか全然興味ない感じの熱血サッカーバ監督だったし、修也はますます甲斐性なしの
 ダメダメダメンズになってたし、有人さんは日本で影山さんの跡を継ぐんだって」

「へえ・・・? でも良かった帰って来てくれて。俺たちすごく心配してたんだ、女神はいつ帰ってくるんだろうって」

「ごめんねー。チームってまだあるのかな、私まだクビになってない?」

「もちろん! あ、俺今10番つけて戦ってるんだ。監督いない穴埋め超頑張ってるからご褒美のキスが欲しいなあ」

「フィーくんまた電撃移籍したの? もー、そんなことしてたらまた私叱られちゃうじゃん、フィーくん持ってくなーって」

「だって放っておけないよ!? それにずるいよ、彼らばっかり独占してて」




 何度も期限付きの移籍を繰り返すフィディオを、果たして彼のファンはどんな思いで見ているのだろうか。
ミネルバ許すまじ、殺してやると思っている熱烈なファンもいそうだから怖い。
本当に会いたかったよー、鬼道がいなくて寂しいだろうけどこれからは俺がずっと毎日一緒にいるから楽しいよー!
そう言ってご褒美のキスもお帰りのキスもお帰りのハグも掻っ攫っていく幼なじみの背後で、カシャリとシャッターを切る音が聞こえた。





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